これまで、1962年から現在までの、約55年間の米国の景気後退と米国債イールドカーブの関係を、調べてきました。
今回は、これまで調べてきた三種類のイールドカーブの特徴を比較してみたいと思います。
1.新発債と新発債間のイールドカーブ
新発債の10年債と3ヶ月債のイールドカーブ(90日移動平均)は、以下のようにまとめられます。
【範囲】
このイールドカーブがカバーする範囲は、1982年から現在までの約35年間です。
この間に、3回の米国の景気後退が発生しました。
【逆イールド】
この間に、3回の逆イールドが発生して、いずれも、その6四半期以内に、景気後退が発生しています。
逆イールドの景気後退に対するリードタイムは、7ヶ月~16ヶ月です。
2.新発債と既発債のイールドカーブ(利回り調整前)
新発債10年債と既発債3ヶ月債のイールドカーブ(90日移動平均、利回り調整前)は、以下のようにまとめられます。
【範囲】
このイールドカーブがカバーする範囲は、1962年から現在までの約55年間です。
この間に、7回の米国の景気後退が発生しています。
【逆イールド】
7回の逆イールドが発生して、そのうち、6回で、6四半期以内に、景気後退が発生しています。
逆イールドの景気後退に対するリードタイムは、4ヶ月~15ヶ月です。
1966年に発生した逆イールドでは、その後に、米国は景気後退に陥りませんでした。これは、ベトナム戦争による軍事支出の拡大により、米国の景気後退が直前で回避された為と考えられます。
また、1990年の米国の景気後退では、その、直前に逆イールドが発生しませんでした。
これは、ベースを合わせるための、既発債の利回りの調整を行っていないことが原因と考えられます。
3.新発債と既発債のイールドカーブ(利回り調整後)
新発債10年債と既発債3ヶ月債のイールドカーブ(90日移動平均、利回り調整後)は、以下のようにまとめられます。
【範囲】
このイールドカーブがカバーする範囲は、1962年から現在までの約55年間です。
この間に、7回の米国の景気後退が発生しています。
【逆イールド】
8回の逆イールドが発生して、そのうち、7回で、その後、景気後退が発生しています。
1966年に発生した逆イールドでは、その後に、米国は景気後退に陥りませんでした。これは、ベトナム戦争による軍事支出の拡大により、米国の景気後退が直前で回避された為と考えられます。
4.景気後退の予測精度の比較
米国の景気後退を予測する精度を比較すると、以下の順になります。
新発債-新発債 > 新発債-既発債(調整後) > 新発債-既発債(調整前)
新発債・新発債間のイールドカーブは、ベースが一致していることから、現時点で、精度が最も高いと言えます。
5.長期的な信頼性
時間軸を考慮したイールドカーブの長期的な信頼性を比較すると、以下の順になります。
新発債-既発債(調整前)、新発債-既発債(調整後) > 新発債-新発債
新発債・既発債のイールドカーブがカバーする範囲は、約55年間と長期間に渡り、その間に、比較的に高い精度で、6回~7回の米国の景気後退の予測に成功しています。
一方、新発債・新発債間のイールドカーブは、カバーする範囲が、約35年間と相対的に短く、対象となる景気後退も三回のみであるため、サンプル数の不足から、未だ、長期的な信頼性に課題があると考えています。
6.予測の客観性
米国の景気後退を予測する際の客観性の高さについて比較すると、以下の順になります。
新発債-新発債、新発債-既発債(調整前) > 新発債-既発債(調整後)
新発債と新発債の間、ならびに、新発債と既発債(調整前)の間のイールドカーブは、単純な計算式で求められ、客観性が高いと言えます。
一方、新発債と既発債(調整後)に関しては、調整利回りを最終的に何%に設定するかは、測定者の判断に委ねられるために、主観的要素が入り込む余地があります。
7.注意点
イールドカーブによる米国の景気後退予測は、客観性が高く、現時点での、精度・信頼性も高いと言えます。
しかし、1966年に発生した逆イールドが予測を外したように、米国の財政政策の影響を大きく受けます。
また、1940年代や1950年代のように、金融・財政政策等の影響により、景気後退予測のツールとして全く、利用できない可能性もあります。
次回以降に、これらの影響などについて、述べて行きたいと思います。
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