2013年7月15日月曜日

日米の景気循環の比較 第21回 長期金利と住宅投資の関係 1990年の例

1.前回のまとめ
 
前回は、1995年前後の金融危機・アジア危機前の景気回復期における、日本の長期金利と住宅資金貸付額との関係を調べた結果、この時期は、消費税増税の影響で、長期金利による住宅投資の自律的な制御が効いていなかったことを確認しました。
 
今回は、1990年前後の不動産バブル崩壊前の景気回復期における、日本の長期金利と住宅資金貸付額との関係を調べてみます。
 
2.長期金利
 
以下のグラフは、1987年1月から1991年12月の日本の長期金利の推移です。
各月の月末の利回りをプロットしたものです。
データ源泉:HSCI
 
 
1980年代後半は、バブル景気が加熱した時期で、長期金利も、4%台から徐々に切り上がり、1回目のピークは、1987年9月に、6.307%を付け、一旦、4%台後半に低下した後、1990年9月に、8.105%で2回目のピークを付けた後に、バブル崩壊が崩壊し、景気後退によって、長期的に下落を続けていきました。
 
3.新規住宅資金貸付額
 
以下のグラフは、上の長期金利と同じ期間(1987年1Qから1991年4Q)の新規住宅資金貸付額の4四半期移動平均の推移です。
 
 
1回目のピークは、1988年1Qに2兆6537.5億円で、2回目のピークは、1989年4Qに2兆8665.25億円で付けた後、右肩下がりで、2兆円を下回って行きました。
 
一見すると、長期金利のグラフと似た形状ですが、1回目のピークのずれが2Q、2回目のピークのずれが3Qと、2回目の方が大きくなっています。
 
4.データポイント
 
次に、データの値で上の期間中の長期金利と新規住宅資金貸付額を比較してみます。
 
【長期金利】
1987年5月・・・3.78% 左側のボトム
1987年9月・・・6.307% 1回目のピーク
1988年12月・・・4.611% 中間のボトム
1990年9月・・・8.105% 2回目のピーク
1993年12月・・・3.413% 右側のボトム
【新規住宅資金貸付額】
1983年3Q・・・6919.5 左側のボトム
1988年1Q・・・26537.5 1回目のピーク
1988年4Q・・・23219.5 中間のボトム
1989年4Q・・・28665.25 2回目のピーク 
1991年3Q・・・19128.25 右側のボトム
 
上のように、1回目のピークは、長期金利が2Q右側にずれていました。
一方で、2回目のピークは、長期金利が3Q右側にずれていました。

5.時系列分析

当時の状況を時系列的に詳細に振り返ると、以下のようになります。

1988年8月の半ばの日銀の統計発表で、1回目の新規住宅資金貸付額のピークを確認。

8月末時点の長期金利は、5.615%と直近のピーク(前年9月の6.307%)から1%弱低下。

その後、1988年末には、長期金利は、4.611%まで低下。

●1988年の末時点では、長期金利の上昇→住宅投資の減少→景気の減速→長期金利の低下という流れが確認され、長期金利と住宅投資が同期的に動いていることから、長期金利による住宅投資の自律的な制御が効いており、景気はコントロールされた状態にあると判断できた。
 ↓
1990年5月の半ばの日銀の統計発表で2回目の新規住宅資金貸付額のピークを確認。
5月末時点では、長期金利は、6.263%と直近のピーク(同年3月の6.816%)から0.3%程度の僅かな低下に留まっていた。
その後、長期金利は、急上昇して、2ヶ月後の7月末には、7.023%と5月末から約1%上昇。
●1990年7月末時点では、住宅投資が既にピークアウトしている中で、非同期的に、長期金利が急上昇しており、長期金利と住宅投資の自律的な制御が効いておらず、近い将来の景気の失速が予測出来る状況であった。
さらに、2ヶ月後の9月末には、8.105%と、5月末からの約4ヶ月間で2%も上昇して、2回目のピークを付けた。
翌1991年2月をピークに景気後退入り。
 
【2回目の長期金利のピークアウトが遅れた理由】
・バブル景気の加熱によって、資産価格の上昇が金利コストの上昇を大きく上回り、長期金利の上昇による投資の抑制が効かなかった。
・消費税導入の直前であり、住宅以外にも、耐久消費財などに駆け込み需要が発生していた。
 
6.まとめ

1990年前後の景気回復期では、新規住宅資金貸付額と長期金利の2回のピークのうち、1回目は、両者が同期的に動き、景気後退入りが避けられましたが、2回目は、バブル景気の加熱等により長期金利のピークアウトが遅れ、景気後退に陥りました。

このように、新規住宅資金貸付額と長期金利との同期・非同期の状況を調べることによって、住宅投資の失速による日本の景気後退入りをかなり正確に予測することが可能であると言えます。

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