前回までの複数回にわたって、日本の住宅投資関連の各種指標を分析してきました。
今回は、整理のために、これらの指標の中から景気分析用に重要な指標を挙げて、その特徴、利点・欠点などをまとめてみることにします。
2.新規・個人向け住宅資金貸付額
(1)データ源泉
日本銀行の預金・貸出統計
(2)特徴
日本の民間銀行が個人向けに新規に貸出した住宅資金の総額を日本銀行が、四半期毎に集計・公表したもので、日本の住宅の最終需要を見るための、最も基本的な指標。
国内銀行と信用金庫の住宅ローンは、全体の約75%を占めると見られ(2011年実績)、その全額がこの統計に反映されている。業態別住宅ローンの推移 住宅金融支援機構
また、一般的な住宅取得では、支払い額の6分の5(約83%)を住宅ローンで支払うと仮定すると、日本の住宅の最終需要の約62%(=75%×83%)がこの統計に反映されていると考えられる。
(3)利点
・全ての民間銀行から報告された会計数値を日本銀行が集計・公表しているため、信頼性が高い。
・約40年分の長期のデータが蓄積されてあるため、その間に発生した9回の景気後退との関係を長期的に分析できる。
・貸付額という金額で表された数値であるため、契約率や戸数では捉えにくい住宅投資の金額的なボリューム感が分かる。
(4)欠点
・四半期単位のデータであるため、直近の数値の把握が遅れる。例えば、貸付額のピークアウトを確認するためには、翌四半期末の翌々月の半ば、すなわち、5ヶ月半後となってしまう。
・長期金利の変動に影響されて、景気循環よりも短い周期で上下する傾向があるため、常に、長期金利と比較しながら、景気循環に沿った動きかどうかを見極める必要がある。
(5)グラフ
3.住宅ローン資金需要判断D.I.
(1)データ源泉
日本銀行の主要銀行貸出動向アンケート調査
(2)特徴
日本銀行と取引のある国内銀行および信用金庫のうち貸出残高の大きい50 行を対象に、一年に4回(1月、4月、7月、10月)、貸出動向をアンケート形式で調査・発表しているもので、対象金融機関の貸出残高全体に占める貸出シェアは約75%に達している。
この調査の中に、住宅ローンの貸出動向の調査が含まれており、住宅ローン資金需要判断D.I.というポイント形式でまとめられている。
(3)利点
・住宅ローン資金需要判断D.I.は、この調査の翌月に発表される新規・個人向け住宅資金貸付額と同じ方向性を示すために、同指標を予測するための補完指標として利用できる。
(4)欠点
・金額ではなく、ポイント形式のD.I.であるため、アンケート回答者の主観が入る余地がある。
・また、回答者の間でバラつきが生じる可能性がある。
(5)グラフ
4.首都圏マンション契約率
(1)データ源泉
民間の不動産経済研究所が、首都圏や近畿圏における新築マンションの月間契約率を集計して発表しているもの。
(2)特徴
新築マンションの需給がどの程度、逼迫あるいは緩和しているかが分かる。また、ノイズが比較的に小さく、長期的なトレンドを把握し易い。
(3)利点
・前月のデータが翌月の半ばに公表されるために、マンション市場の需給動向を最も早期に把握できる。
・基本的に、新規・個人向け住宅資金貸付額と同じ方向性を示すために、同指標を予測するための補完指標として利用できる。
・新規・個人向け住宅資金貸付額は、長期金利の変動に同期して、景気循環よりも短い循環構造を持つが、首都圏マンション契約率は、長期金利の変動の影響を受けにくい。これは、首都圏マンション契約率の分子(需要)と分母(供給)が、長期金利の変動の影響を相殺し合うためだと考えられる。
・2012年のような円高不況の先行指標として利用できる可能性がある。
(4)欠点
・統計開始が1994年であり、約20年分のデータ蓄積しかないため、この間、4度の景気後退との関連しか分析出来ない。
・民間のマンション業者の自主的な報告に基づく統計であるため、信頼性や基準の統一に関して、やや、懸念がある。
・首都圏の新築マンションという限られた範囲のデータで、日本全体の住宅市場を予測することは、誤差が大きくなる可能性がある。
(5)グラフ
5.新設住宅着工戸数
(1)データ源泉
国土交通省が、全国の建築申請のデータを月次で集計して、公表しているデータ。
(2)特徴
持ち家、貸家、給与住宅、分譲住宅、分譲マンションといった単位で集計されており、日本の住宅の供給動向を見るための最も基本的な統計。
(3)利点
・建築申請という公的なデータに基づいているため信頼性が高い。
・今後、建設業に発注される仕事量を予測出来る。
(4)欠点
・一般的に供給のピークは、需要のピークよりも遅れるため、景気の先行指標と言うよりは、一致指標である。
・戸数単位であるため、金額的なボリュームを把握し難い。
・分譲住宅や分譲マンションなど、見込み需要に基づいた着工戸数もこの統計に計上される。
・現時点でネットで取得できる新設住宅着工戸数のデータ範囲は、約10年分であり、長期的な分析には不十分である。
(5)グラフ
5.住宅メーカーの受注速報
(1)データ源泉
大手の住宅メーカーが、前月の受注実績を各社のホームページで公開している。
(2)特徴
複数の会社の受注実績(一戸建て注文住宅の受注金額の前年同月比)を同時に見ることによって、一戸建て住宅市場のトレンドを推測できる。
(3)利点
・前月のデータが翌月の半ばに公表されるために、市場動向を早期に把握できる。
・2012年のような円高不況の先行指標として利用できる可能性がある。
(4)欠点
・最も蓄積量の大きい積水ハウスのデータでも、約8年分しか無いため、景気循環との長期的な関係分析は不可能である。
・各企業の自主的な報告であるため、信頼性にやや欠ける面がある。
・大手の住宅メーカーの市場寡占率は低いため、受注速報が、全体の住宅市場をそのまま正確に映し出しているとは限らない。
(5)グラフ
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